電 磁超音波共鳴による金属転位の動特性観察 〜 金属 11 1998 Vol. 68, No. 11, 997, アグネ から 〜

電磁超音波共鳴とは,電磁超音波センサ(electromagnetic acoustic transducer: EMAT)によって金属内にMHz帯域の共鳴を発生させる新しい計測方法である.共鳴スペクトルから共鳴周波数を,また共鳴時の残響にあたる緩和曲線から減衰係数を測定する.EMATは永久磁石とコイルで構成され,電磁気的作用で金属試料の表面に直接超音波を励起させるので非接触測定が可能である.
電磁超音波センサ  これまで多様なEMATが開発されており,目的,超音波モード,非測定物の形状・寸法,強磁性体か非磁性体か,で使用するEMATを選択する.後に述べる実験で用いたEMATを例に作動原理を説明する(図1参照).これは一方向に偏向しながら入射面から垂直に伝わる横波を送受信するもので,互いに逆の磁化方向をもつ一対のNd-Fe-B系焼結磁石と長円形のシートコイルからなる.このコイルに高周波電流を与えると,近接する金属表面に逆向きのうず電流が誘起される.このうず電流と磁石が作るバイアス磁場との相互作用によって両者に直交した方向のローレンツ力が自由電子に働く.原子との衝突などを経て,振動する機械的な力Fyとなり,これが超音波の波源になる.受信の場合はこの逆過程が起き,横波によって誘起されたうず電流がコイルによって検出される.強磁性体では動的な磁歪(じわい)が主たる波源となる.すなわち,最初バイアス磁場によって表面と垂直方向に伸張していた材料要素が水平な動磁場のため斜め方向に変形を受ける.これはせん断変形であり,周期的な動磁場は振動する磁歪力を生みだし,横波の波源となる.この磁歪力はローレンツ力と同方向に作用するが,強さは磁歪力が支配的である.

図1 横波用電磁超音波センサの作動原理と実験装置の概略

電磁超音波共鳴
このEMATを厚さd の板状測定物に取り付け,バースト波信号で励起して板厚方向に伝ぱする超音波を入射する場合を考える.他のEMATや形状でも同じ原理である.バースト波とは,単一周波数で一定振幅の電気信号をさす.入射された超音波は減衰しながら伝ぱし,板の両面で反射を繰り返す.入射面に到達するたびに,励起し終わったEMATによって電気信号に変換される.バースト信号の長さが1往復に要する時間より長いと,反射信号は互いに重なり合う.各々の反射信号は(伝ぱ距離)÷(音速)の遅れ時間をもって受信されるので,一般にはすべて位相が異なる.その結果,重なった反射信号間に干渉が起こる.すなわち,位相が合えば強め合い,位相がずれると互いに打ち消し合って合成信号の振幅は微弱となる.  この位相は(遅れ時間)÷(周期)であるので,バースト波周波数を変えて周期をさらに位相を変化させれば,さまざまな干渉状態を作り出すことができる.1往復の伝ぱ時間が周期の整数倍になるように周波数を選ぶと,全反射波の位相が0に一致し,正の干渉の結果大きな合成振幅が得られる.この周波数を共鳴周波数とよぶ.周波数を掃引すると,共鳴ピークは等間隔で現れる.音速を cとすれば, n 次の共鳴周波数はfn=nc/2d である.共鳴_非共鳴のコントラストは,干渉し合う反射波の数が多いほど顕著になり,その結果鋭い共鳴ピークが形成される.  このように位相が単純に(遅れ時間)÷(周期)で与えられるのは,変換効率が極めて低いEMATに限られる.受信の段階で最小限のエネルギだけが電気信号に変換されるため,超音波はセンサからの悪影響を受けることなく試料内で長い時間伝ぱを持続して反射を繰り返す.接触して使用する圧電センサでは,高い変換効率が災いして,反射する際に位相変化やセンサへのエネルギの漏れが生じ,現象そのものを乱してしまう.センサによる損失が測定し減衰を圧倒している場合も多い.これでは高精度の計測は望めない.この悪影響は高粘性の音響結合剤を要する横波について顕著であるため,これまでの超音波計測,特に減衰,で横波が敬遠されてきた.  一方,EMATの低い変換効率のため,発生する超音波が弱いという根本的な問題がある.しかし,共鳴周波数では多重反射信号がすべて同位相で重畳し,大きな振幅として測定されるので低い変換効率を十分補うことができる.電磁超音波共鳴では,共鳴によってEMATの低い感度を補い,同時にEMATの非接触性によって試料とセンサを音響的に切り離す,という巧妙な組み合わせになっている.  試料に共振状態を励起し終わった後に観測される緩和曲線は,したがって同位相で重畳した反射信号の時間的な振幅減少を見ていることになる.指数関数に回帰して得られる 指数係数αは,その周波数での減衰係数そのものである.減衰はまた,共鳴ピークの鋭さを表す Q値によっても測定できる. αとQ 値には, Q-1= α/ πf の関係がある.Q 値は試料寸法と使用するセンサに依存するだけでなく,隣接した共鳴モードやノイズの影響を直接受ける.これに対し,緩和曲線から求める αにはこれらの影響はなく,回折補正 1) だけを行えば超音波減衰の絶対測定が実現することになる.  技術的には,高出力で,単色周波数の,長い持続時間の,さらに完全にコヒーレントな励起バースト信号をEMATに印加することが必要である.また,鋭い共鳴ピークでも的確に検出するために周波数を小刻みに掃引することと,受信信号から励起周波数以外の信号を除去する処理も必要である.これらの条件を満たすスーパーヘテロダイン周波数分析装置による実験結果の1例を紹介する.工業的な応用(音弾性応力測定,結晶粒径の測定,経年劣化の診断など)については解説 2)-6)を参照されたい.
アルミニウムの回復
  金属に応力を加えて,ある一定値に保持するとひずみなどが時間的に変化して変形前の状態にもどろうとする.この非弾性現象を回復とよぶ.塑性変形を加えた金属の回復中に超音波減衰が漸減することは古くから知られている.ここでは,弾性域内の回復における微小な αの変動を検出し,そのメカニズムについて考えてみる.  実験材料は多結晶アルミニウム(純度99.99mass%,99.6mass%)の焼鈍材である.降伏応力は,それぞれ約15MPaと70MPaである.試料寸法は50 x 40 x 6mm3で,50mmの方向に圧縮応力を負荷しながら(負荷速度は0.06MPa/s),厚さ方向に伝わる横波の減衰係数を変形および回復中に連続測定した.図1に実験装置の概略を示す.EMATは,有効面積10mm角の手製のものを送受信兼用とし,簡単な治具で試料に固定した.  図2(a)にn =24の横波の共鳴ピークを示す.測定したスペクトルにローレンツ関数を近似し,その中心軸を共鳴周波数とする.次に,この周波数でEMATを励起して図2(b)の緩和曲線を測定する.これを指数関数に近似して減衰係数 αを決定する.この一連の測定は自動化されており,数秒で完了する.  図3は,50MPaまで負荷→ 20分保持 → 除荷 →応力零で20分保持 → 70MPaまで再負荷,の過程におけるα の変動である.αは負荷中単調に増加し,一定応力のもとで回復する.除荷の最初に αは負荷直後のレベルにまで増加するが,その後減少に転じる.除荷後,応力零においても回復が見られる.再負荷の途中最初の負荷の最終応力(50MPa)で,増加中の αに小さな「くぼみ」が生じるが,その後は増加を続ける.除荷開始直後のα の増加とこのくぼみは,応力を保持せず直ちに除荷した場合には現れない.このα の挙動は純度99.99mass%でも同様である.

図2 共鳴ピークと緩和曲線の測定例(Al99.6mass%)(上).実線は近似曲線. 図3 アルミニウム(純度99.6mass%)における,負荷 → 保持 → 除荷 →保持→ 再負荷中, の減衰係数 αの変動 (下).

転位-点欠陥相互作用
 ここで観測された α の回復は可動点欠陥による転位のピン止めに起因すると考えられる.転位は,超音波がもたらす応力にともなって振動し,その粘性のために超音波のエネルギを散逸させる.転位線には点欠陥が吸着しており,そこを節として転位は振動する.弦モデル 7)によると,α は転位ループ長さ L の4乗に比例する(α 〜 L4 ).応力が加わると強いピン止め点(粒界,析出物,他の転位)だけが固着して転位は張り出すため Lと α が増加する(図4(a)).応力を保持している間,張り出した転位に次第に点欠陥が吸着し,L そして αを減少させる(図4(b)).除荷を始めると転位はこれら新しいピン止めから離脱し,そのため Lが長くなり α も一時増加する.その後除荷とともにもとの平衡位置に向けて転位はもどる(図4(c)).除荷完了後は,点欠陥雲は応力を保持したとき転位が張り出していた領域に停留する.2度目の負荷中,この領域を転位が通過していく際に点欠陥雲に再度ピン止めされ _は一時的に減少する(図4(d)).しかし,すぐに離脱してより大きい応力での平衡位置に向けて張り出しを続ける.なお,応力が変化している間は,転位の進展速度の方が大きいため点欠陥は吸着できないと考えられる.  回復のメカニズムとして他に転位の消滅や再構成が考えられているが,これでは除荷開始直後の αの増加と再負荷中の「くぼみ」を説明できない.  図3から点欠陥によってピン止め強さが異なることがわかる.まず,除荷開始時のわずか10MPaの応力減に対する αの増分は,50MPaまでの負荷中に生じた増分の3/4にも及ぶ.回復中に構成されたピン止め点から転位を離脱させるのに要する応力が10MPaであったことになる.また,最初の負荷のとき15MPa付近まで αが変化しなかったのに対し,再負荷では開始と同時に増加を始めている.これらは焼鈍と回復によって作られたピン止めの強さに大きな違いがあることを示している.  保持する応力を変えてα を測定すると,大きな応力ほど回復は急である.また,同じ応力であれば,高純度の方が回復は速い.回復中のα の経時変化はGranato-Hikata-Lucke理論8)に従うが,同理論と2つの純度での回復速度の相違から,回復中転位に吸着する可動点欠陥は不純物ではなく原子空孔であることが導かれる.アルミニウム内の空孔移動の活性化エネルギは低いため,移動しやすくこのように20 〜30分でαの回復が終わる.  電磁超音波共鳴法はこれまでにない高い精度での音速・減衰計測を可能にするものである.この例のように「その場」観察も行えるので,金属の変形あるいは疲労中の微細組織変化の非破壊的な観察に活用している.金属の音波物性における新しい道具として広く利用されることが期待される.

図4 想定される転位-点欠陥相互作用

参考文献

1) 荻 博次,平尾雅彦,本田崇,福岡秀和:日本金属学会誌,58, 1021 (1994).

2) 荻 博次,平尾雅彦:非破壊検査, 43, 764 (1994).

3) 荻 博次,平尾雅彦:超音波テクノ, 8, 14 (1996).

4) 平尾雅彦,荻 博次:非破壊検査, 46, 764 (1997).

5) M.Hirao and H.Ogi:Ultrasonics, 35, 413 (1997).

6) 荻 博次,平尾雅彦,森下智博:機械の研究, 50, 251 (1998).

7) A.Granato and K.Lucke:J.Appl.Phys., 27, 583 (1956).

8) A.Granato, A.Hikata,and K.Lucke: Acta.Met., 7, 470 (1958).

以下は,脚注および「今月のことば」の内容

スーパーヘテロダイン周波数分析: IF発信器,フィルタ,ミキサからなり,受信信号から励起周波数成分の振幅と位相を抽出する.IF(intermediatefrequency)が測定周波数域より高いのでそう呼ばれる.

Granato-Hikata-Lucke理論: 1958年Granatoらは,点欠陥の吸着による転位線長さの時間変化を計算し,減衰係数の回復を表す理論式を提案した.Cottrell-Bilbyによる点欠陥の転位への拡散理論に基づく.

電磁超音波センサ: 磁石とコイルから構成され,導体に対して超音波を非接触で送信・受信するのに利用される.変換効率が低いため信号は一般に弱い.しかし,センサと測定物とが音響的に分離される利点があり,高精度での音速・減衰の測定に適す.低変換効率は,共鳴測定や焦点化によって補える.

ローレンツ関数: y=1/(1-x2).強制振動に対して,減衰が非常に小さい時の質点ーバネ振動系が示す共鳴曲線を表す.

弦モデル: 1956年に,GranatoとLuckeが提案した転位振動のモデル.転位は,粘性をもとなって振動するため超音波のエネルギーを吸収する.点欠陥に釘付けされた転位を,両端固着で張力を持つ弦として取り扱い,転位密度・転位線長さと内部摩擦の関係を導いた.転位_点欠陥の相互作用に関わるいくつもの現象を定性的に説明することに成功している.しかし,超音波に対し可動な転位だけを対象としたモデルであり,定量的な議論を行う場合には注意を要する.