磁性薄膜の弾性と磁性
〜ナノ磁性材料の弾性と磁性の関係を超音波を使って解明する〜

パソコンやDVDレコーダー、携帯型音楽プレーヤーなど、身の回りの多くの電子機器でハードディスクが使われています。ハードディスクでは円板形状の基板の上に磁性薄膜が成膜されており、磁性膜を磁区とよばれる領域に分割して、それぞれの磁区の磁化の向きを変えることで情報を記録しています。1956年にIBMでフロッピーディスク4枚分ほどのハードディスクが開発されて以来、ハードディスクの記録密度は向上の一途を辿っており、現在も更なる高密度化を目指して磁性薄膜や磁性粒子に関する研究が精力的に行われています。

私たちはこの磁性薄膜の弾性的な性質を解明し、さらには弾性と磁性の関係を解明しようと試みています。

従来の磁性材料の磁気的な性質は系統的に説明することができます。しかしながら、Co/Pt超格子などが示す「垂直磁気異方性(PMA)」と呼ばれる磁気的性質はさまざまな要因が影響していると考えられており、発生の原因はいまだに解明されていません。ここで、私たちはさまざまな要因の中でも「弾性ひずみ」が重要な役割を果たしているのではないかと考えています。

「薄膜の磁性」は一見して力学的性質とは何ら関係ないように思えますが、実は磁性と力学には深い関係があります。たとえば磁性材料は「磁ワイ」という性質を持っています。これは磁性体に外力を作用させて弾性変形させると、自発磁化の向きが変化するという性質です(磁石を変形させるとN極とS極の位置がずれると思ってください)。コバルトであればa軸方向に引っ張るとc軸方向に磁化し、a軸方向に圧縮するとa軸方向に磁化します。

Co/Pt超格子やFePt合金薄膜では既存の磁気的性質だけでは説明することのできない現象が現れます。例えは、Co単層膜では必ず面内方向に磁化するのに、CoとPtを数原子ずつ積み重ねて多層膜にすると面外方向に磁化します(これが垂直磁気異方性)。多層膜では異物質の界面で原子間距離の違いのために1%以上もの大きなひずみが発生することがあります。そこで、私たちは磁性と弾性の間にこれまでに知られていない関係があるのではないかと考え、実験によって新しい関係を発見しようと試みています。このように磁性薄膜の弾性と磁性の関係に注目した研究はこれまでにありません。

こうした研究が行われてこなかったのは、薄膜の弾性定数測定が非常に困難なためであります。しかし、平尾研究室はすでに数十ナノメートル(ナノメートル=10-9m)の厚みの磁性薄膜の弾性定数を計測する技術を開発しており、世界に先駆けて薄膜の弾性と磁性の関係の解明に取り組んでいます。これまでにCo/Pt超格子について弾性と垂直磁気異方性の関係を実験によって調べたところ、高弾性のCo/Pt超格子ほど磁気記録媒体として有望である(PMAが強い)ということが分かりました。さらに、この関係を説明することのできる弾性モデルを提案しています。現在も超格子や合金薄膜の弾性と磁性の関係に注目して研究を行っています。

<参考文献>

  • N. Nakamura, H. Ogi, T. Yasui, M. Fujii, and M. Hirao, Phys. Rev. Lett. 99 (2007) 035502.
  • N. Nakamura, H. Ogi, M. Hirao, and T. Ono, J. Appl. Phys. 97 (2005) 013532
  • N. Nakamura, H. Ogi, M. Hirao, and T. Ono, Appl. Phys. Lett. 86 (2005) 111918.

(最終更新日:2008/03/04)