ダイヤモンドよりも強い原子間結合力を持つ物質

〜決め手は超高周波音!可視光より短い波長で響く音を正確に計測する技術で立証〜


双晶という欠陥を大量に導入したナノ双晶多結晶ダイヤモンドが通常のダイヤモンドよりも強い原子間結合力を有することを発見しました。ダイヤモンドは、あらゆる物質中で最大の原子間結合力を持つとされてきましたが、今回の発見は、ダイヤモンドを超える原子間結合力を有する物質を初めて発見したことになります。このたび当研究グループが開発した、可視光よりも短い波長をもつ超高周波の音を正確に計測することで、原子間力を精密に決定する手法により、このような事実を実験的に立証することができました。

物質は、それを構成している原子が、おびただしい数のバネによって3次元的に繋がれてできています。原子と原子をつなぐバネのバネ定数(原子間結合力)が大きいほど、その物質の結合力は大きく、変形しにくくなります。最も高いバネ定数をもつ物質がダイヤモンドです。この高いバネ定数のおかげで、極めて高い融点、熱伝導率、硬度が実現されています。ダイヤモンドを超えるバネ定数をもつ物質が世界中で長い間探究されてきましたが、実験的には一つとしてその例は見出されていませんでした。我々は、高温・高圧の特殊な条件下で合成したナノ多結晶ダイヤモンドが、通常のダイヤモンドを超えるバネ定数を持つことを発見しました。このダイヤモンドには、多量の双晶と呼ばれる欠陥が存在します。通常の物質では、欠陥が導入されると、平均的な結合力が低下するために、バネ定数は小さくなるはずです。ところがこの特殊な欠陥部分のバネ定数が逆に非常に大きくなることを理論的に見出しました。


微小領域の振動を励起•観測するための光学系

合成したナノ双晶多結晶ダイヤモンドは、数ミリ角と小さく、通常の方法ではそのバネ定数を測定することができません。最近は、小さい物質のバネ定数を計測するには、物質を鳴り響かせてその音色を聞き取る、という方法が一般的に用いられています。同じ重さで同じサイズの物質が鳴り響くとき、より高い音で鳴り響けばより強いバネから構成されていることが分かります。ところが、ナノ双晶多結晶ダイヤモンドは小さく硬いため、正確に形状を整えることが難しく、バネ定数を従来の手法により計測することができませんでした。そこで研究グループは、レーザー光を用いて、直径50マイクロメートル、奥行き5マイクロメートル程度の領域だけを鳴り響かせ、また、その音色を別のレーザー光で正確に「聞き取る」、という技術を開発しました。これにより、不定形なナノ双晶多結晶ダイヤモンドの一部だけを鳴り響かせ、正確にバネ定数を測定することができるようになりました。鳴り響かせる音の波長は90ナノメートルです。これは、可視光の波長(数百nm)よりかなり短い波長です。測定の結果、通常のダイヤモンドのバネ定数を確実に超える値が観測されました。

今回の成果は、ダイヤモンドのバネ定数が特殊な欠陥により強化されることを立証したもの、と言ってもよいです。ナノ双晶多結晶ダイヤモンドは、この構造の特徴から、通常のダイヤモンドと異なる新しい人工物質であるのです。ダイヤモンドには、双晶以外にも、原子配列を大きく乱さない欠陥構造が存在し得ます。今回の発見は、さらに大きくバネ定数を向上させる欠陥構造の探索という新たな研究分野の起点となります。こうした研究は、高いバネ定数が要求される超高周波共振デバイスの実現につながりますので、携帯電話等の通信周波数の高周波化、高速化などに貢献することが出来ます。



ダイヤモンド試料の表面近傍だけが鳴り響いている様子

また、物質のバネ定数は、その物質の最も重要な性質の一つであり、新たに物質が開発されると必ず必要とされる値です。携帯電話の通信機フィルタなどの多くのデバイスにおいては、それらを構成する物質のバネ定数が非常に重要な設計パラメータであり、この値が無ければデバイスの設計を行うことができません。今後も、様々な機能を有する新物質が開発・発見されるでしょうが、それらのほとんどが微小なサイズでしか得られません。本研究において開発した手法は、砂粒であっても正確にバネ定数を測定することができるため、新規材料の計測において標準的な手法となるものであると言えます。

本研究成果は8月12日付けで英科学誌Nature Communicationsに掲載されました。